2016年9月22日木曜日

バカラ ロザンジュ BACCARAT LOSANGE

Photo: Courtesy Baccarat 

1930年リリースのこのモデル、ジョルジュ・シュバリエのデザインです。
今年(2016年)100点限定でリエディション(リバイバル製造)されましたでお知らせも兼ねてモデル紹介です。

専門書には頻繁に登場する品ですが、オリジナルの1930年代の品も製造数が少なかったのかコレクター歴の長い私でも売りに出ているのを見たことは一度もなく、所謂幻の名作、ミュージアムピースでした。

意匠的には本体の形状もカットも菱形、透明ガラスに色ガラスを被せそれをまた菱形にカットして、1920年代的なデコラティブな部分と1930年代的なモダンな部分とを両方持ち合わせた、ハイブリッドなデザインが魅力です。

私も入手したわけではなく、バカラのプレス提供の写真にてモデルのみのご紹介になります。ご購入に興味のある方は、限定100点でバカラ公式ショップでお取り寄せ、お求め頂けると思います。

Photo: Courtesy Baccarat 


名前の由来;
Losangeとはフランス語で菱形の意。ダイヤモンドまたはトランプの絵柄のダイヤという意味もあります。
このモデルは形状もカットも菱形でそのものズバリという感じ。わかりやすいですね。
バカラの商品名にしては珍しく捻りがなくストレートすぎて拍子抜け。これではブログが成り立たなくて困ります。。。

1930年ごろ菱形が流行していたか等調べてみましたが、ネット検索程度では幾つか菱形のジュエリーがヒットして来た程度です。


写真はアンティーク、ビンテージジュエリーサイトhttp://www.bijoux-bijouterie.comより



菱形、ロザンジュに関し他に何を書いていいものか少し悩みましたが、個人的には菱形というと、最初に思い出すのが巨匠パブロ・ピカソの「アルルルカン姿のパウロ」。自分の息子ポールを描いた名作なので、この絵に関して少し書くことにします。

シャイな感じのパウロの空を見つめる表情と道化の菱形模様のアルルルカン(仏語)アルレッキーノ(伊語*1)の服装のコントラストが印象的です。
1924年の作でパリのピカソ美術館所蔵。

Pablo Picasso,
Paul en Arlequin, 1924,
Huile sur toile, 130 x 97,5 cm
Dation 1979, MP83
© Succession Picasso
Cliché : RMN-Grand Palais (Musée Picasso – Paris) / Jean-Gilles Berizzi



ピカソは1917年、当時若きジャン・コクトーなどの未来派アーティストと知り合い、セルゲイ・ディアギレフが主宰するバレエ団バレエ・リュス(Ballets Russes)のために舞台装置や舞台衣装などを手がけます。

少し話が逸れますが、ディアギレフのバレエ・リュスは作曲家で言えばエリック・サティやストラヴィンスキー、プロコフィエフ、美術家ではピカソ、コクトーの他マティスやデ・キリコなどの当時きって前衛芸術家が協力する斬新な総合芸術で、後の舞台芸術全般に極めて大きな影響を与えます


初期のバレエ・リュスの舞台
画像はビデオDiaghilev and the Ballets Russes」(英語)より


ピカソにとってはこの劇場関連の仕事経験がイタリア発祥のコメディア・デッラルテ、更にはイタリア美術への造詣を深めるきっかけとなり、1900年代初頭に傾倒したキュビズムに距離を取りはじめ、1918年頃から絵画ではこのようなネオ・クラッシック的な作品を制作しはじめたと言われています。

ピカソはそのバレエ団のバレリーナのオルガ・コクローヴァと2018年に結婚。1921年にはこの絵のモデル、第一子のパウロ、をもうけます。

そういう様々な経緯を考えると、昔、初めてこの絵画を見たときに不思議に思った、幼少のパウロアルルカン姿も納得がいきます。



とはいえピカソはアルルカン姿が好きだったようで、このパウロ以外にもアルルカン姿の人を具象や抽象で様々に描いています。
全てピカソの作品で左から:
Acróbata y joven arlequín(アクロバット師と若いアルルカン)1905年作
Arlequín (ハーレクイン / アルルカン)1915年作 MOMA ニューヨーク近代美術館所蔵
Arlequin, Les Mains Croisee(手を交差させるアルルカン)1923年作
L'Arlequin assis(座るアルルカン)1923年作 


でももちろん、ジョルジュ・シュバリエがアルルカンからインスピレーションを得たという話ではなく、ロザンジュ(菱形)とう言葉から今回は私の勝手な連想でピカソの絵のお話になりました。

ヨーロッパの流行という観点では1920年代と1930年代がらりとスタイルが変わるのです。
この点に関してご興味のある方はLIDOリドの項目などもご覧ください。




ピカソの妻でポールの母バレリーナ、オルガ・コクローヴァ


コメディア・デッラルテ



(*1 日本語版ウィキペディアより)
アルレッキーノ (Arlecchino) はイタリアの即興喜劇コメディア・デラルテ中のキャラクターの一つで、トリックスター。ひし形の模様のついた衣裳で全身を包み、ずる賢く、人気者として登場することが多い。国によっては、アルルカン(: Arlequin)、ハーレクイン(: Harlequin)とも呼ばれる。欧米では道化役者の代名詞となっており、芸術作品の中では、ピカソの「アルルカン」、チャップリンの「ライムライト」、ロベルト・ベニーニの映画「ピノッキオ」のマリオネット、アンデルセンの短編小説集「絵のない絵本」の第十六夜、ブゾーニオペラ「アルレッキーノ」などに登場する。