2017年5月23日火曜日

アンティークバカラ 3458 BACCARAT 3458


20世紀初頭のカタログに確認することができるこのグラビュールのシリーズは1907年のカタログで3458という品番が付いています。1916年のカタログでは見つかりません。
でも、同じエッチングで1917年のスーベニールグラスなどもありますし、マークありの品もたまにあります。

丁度ベル・エポックの時代の製品ということになります。
ベル・エポックといえば初めに連想する様式はアール・ヌーボー、植物的で曲線的な装飾、という方も多いとおもいますが、この品はメアンドロ模様のような幾何学的なパターンのエッチングです。
メアンドロ模様の詳細はアテニィエンの項目をご覧ください。


1907年のカタログページ







製品番号だけで、名前の由来に関しては書けないので、この項目ではこの品の作られた時代ベルエポックの、アールヌーボー様式ではない側面について少し書きましょう。

ベル・エポック(Belle Époque、フランス語で「良き時代」の意)とは、主に19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914年)までのヨーロッパで戦争がなく、パリが繁栄した華やかな時代、またはその文化を回顧して使われる言葉です。
特に19世紀末頃は産業革命も進み、産業革命とそれに伴う消費の増加で生活の質が短期間に著しく向上した時期と言えます。
ボン・マルシェ百貨店などに象徴される都市の消費文化が栄えるようになり、1900年の第5回パリ万国博覧会はその一つの頂点であったと言われています。

裕福層の間で海水浴場や温泉地などへバカンス(ヴァケーション)に行く習慣ができたのもこのころと言われています。


ベルエポックを象徴する1900年のパリ万博

また日常生活を向上させたその時期の主な技術の革新や発明の代表例としては以下が挙げられます。

エジソン(アメリカ)による電球の発明(1879)と普及
マルコーニ(イタリア)によるラジオ発明(1899)と普及
メウッチ(イタリア)による最初の電話(1854)と普及
ライト兄弟(アメリカ)による世界初の飛行(1903)
自動車の大量生産とライン生産方式の導入(1908〜)
タイプライターの普及
Le Bon Marché(フランス)に代表される百貨店のような大規模店の繁盛
エスカレーターの発明(1890)と普及
映画の上映開始 


1887年のボン・マルシェ

まだ馬車のような自動車 プジョー製 タイプ3(1891)

エジソンとほぼ同時に映画を発明したフランスのリュミエール兄弟

リュミエール兄弟による世界初の映画上映のポスター(1896)


豊かな社会は芸術も豊かにするもの。絵画の分野ではモネ、ルノアール、ドガなどに代表される印象派の画家たち、ポスト印象派に区分され「近代絵画の父」と言われるセザンヌ、またポスターを芸術の域にまで高めた特筆されるべきロートレックなどもこの時代の代表的なアーティストと言えます。

ロートレックによるムーラン・ルージュのポスター(1881)
ベル・エポックと言えば直ぐにロートレックのポスターを連想する人も少なくないのではないでしょうか。


セザンヌ画 サント=ヴィクトワール山
セザンヌが幼少時代を過ごした南フランスのエクス=アン=プロヴァンスの山。
同じ山を何度か描いていますがこれは晩年の1904年の作


一方、応用芸術の分野では植物モチーフや曲線を多用したアール・ヌーボーが挙げられます。ガラス業界で言えばエミール・ガレのガラス器などがあり、ガレは1889年と1900年のパリの万博に大量のガラス器を出展してグランプリを受賞しています。が、このモデル、3458の項目には不似合いなので、ここでは割愛します。


一方文学では、ベルエポックといえば、プルースト(ヴァランタン=ルイ=ジョルジュ=ウジェーヌ=マルセル・プルーストValentin Louis Georges Eugène Marcel Proust, 1871年 - 1922年)が半生かけて書き上げた畢生の大作『失われた時を求めて』は後世の作家に強い影響を与え、20世紀西欧文学を代表する世界的な作家として位置づけられています。
初版の発行は第一次大戦後になりますが、語り手自身の生きた19世紀末からベル・エポック時代のフランス社会の諸相も同時に活写されている作品と言われています。

Otto Wegenerによるマルセル・プルースト ポートレート

失われた時を求めて』原稿の、著者による校正