2025年8月28日木曜日

アンティークバカラ パリゾン BACCARAT PARAISON

Photo©Patrick Schuttler

Courtesy: Baccarat 




パリゾン( PARAISON)のセットは、1933年にインドールのマハラジャがマニック・バグにあったアールデコ様式の宮殿のために注文したもの。


インドールの最後のマハラジャはヤシュワント・ラーオ・ホールカル2世で1926年から1947年までインドールの藩王だったので、発注主はヤシュワント・ラーオ・ホールカル2世と言って良いでしょう。




1930年のインドールの藩王ヤシュワント・ラーオ・ホールカル2



意匠的には、1933年のリリースで、ローハンのリリースから3年しか経っていない事、ミケランジェロを代表するアラベスク模様のエッチングを施したグラスが全盛期だった時のリリースである事を考慮すると、かなり斬新で未来的なデザインだったと言えます。またシュバリエの常に先を見る目が垣間見られる逸品です。




Photo©Patrick Schuttler

Courtesy: Baccarat 


実物を入手した訳ではないのですが、以前バカラのプレスオフィスから頂いた写真でブログページを加えることにしました。




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名前の由来


ローマ字読みにするとパライゾン( PARAISON)と呼んでしまいそうですが、「パリゾン」と表記するのがフランス語の発音に最も近いと思います。


「パリゾン」はフランス語で、2つの意味があります。


ひとつは、成形(特に吹き成形)のために準備されたガラスまたはプラスチックの塊の意味。

もうひとつは、その塊を丸く成形する実際の操作を指します。この用語は、「ガラスの塊」、つまり丸く成形してその後の加工に備える工程、あるいはこの工程の結果を指します。


ガラス製造において

操作を指す場合:

パラゾンとは、溶融ガラスの塊をパイプで操作し、丸く滑らかにする操作です。

工程を指す場合:

パラゾンとは、このようにして準備された溶融ガラスの塊自体を指す事もあり、吹き成形または最終製品への加工の準備が整得えた状態を指す事もあります。


ちなみにプラスチックの成形方法にはあまり詳しくないのですが、ブロー成形によってプラスチック製品を製造する場合、パラゾンとは、圧縮空気を注入する中空の端部を持つプラスチックチューブを指すそうす。これが金型内で膨張し、製品の最終形状を形成します。


以下の3つの画像はムラーノグラス(ベネツィアングラス)のプロモーション団体「Consorzio Promo Vetro Murano」のプロモーションビデオから拝借しています。バカラの工場風景ではありません。


ガラスが溶解された窯からパイプでガラスの塊を取り出す作業


取り出したガラスの塊を作業台に移す

フランス語ではこのガラスの塊をパリゾンと言うのです。

そう考えると、パリゾンのデキャンタは

このガラスの塊そのものの様な気もしてきます。




このムラーノグラス(ベネツィアングラス)は宙吹なので手で形を整えていきます。

バカラの製品の大半は型吹きなので型に入れて吹きます。





では、このモデルに何故そんな技術的な専門用語の名前が付けられたのか。


1967年のフランス ガラス クリスタル連盟(出版社:Lallemand社)発行の「フランスのクリスタル」という本の中に6ページに渡り、グラス製造過程を説明するページがあり、その中でカップ部を吹いた後、脚をつける前に、このモデルの特徴となっている金属部分の様な治具に置かれていることがわかります。

この治具を意匠化してしまったのだと解ります。



写真左端、まだ脚のないカップが金属の治具に置かれています。